実験室の小部屋に影が伸びる。冬の終わりの夕日に照らされて、男子生徒は窓から校庭を見下ろした。試験期間を迎えた校庭に生徒の姿はなく、体育館の影が一本の直線を引きずってどこまでも伸びていく。
「時間がないから手短にいくよ」
その声に窓から目を外し、彼は作業台の上に腰掛けた友人を見る。
「僕らが目指すことは三つ。部活の再生、共同スペースの設置、広告塔の確保だ」
「大丈夫~もうぜ~んぶ頭に入ってるから」
床に胡坐をかいて胸を張るもう一人の友人に、彼も応じて頷いた。
「俺も、ほとんどチェックメイトって感じ」
二人の言葉に満足げに頷き、微笑む。
「だからこそ、焦らないこと」
宙に浮かせた足を組みかえる。
「絶対に自ら手を下さないこと。目立たないこと。じっと静かに、向こうの意思で選択させるんだ。僕らの用意した選択肢をね」
二人を覗き込んだ彼の目が夕日に照らされて不敵に光る。
「大丈夫。二年生に面白い子を知ってるんだ。お節介で、目立ちたがりで、突拍子もない事でも必要があればすぐにやっちゃうような、バカで頭のいい子が」
ニッ、といたずらっぽい笑みを見せて、彼は机から飛び降りた。
「さ、帰ろうか」
「え~もう~?」
「二人は勉強、僕は準備」
鞄を肩にかけ扉を開き、ふと思い出して彼は振り返った。
「それと」
あの子は謹慎になったよ。そう言おうとして、やっぱりやめようと思い直す。どうせ何かしらの手段で知る
ことになるのだ。今言う必要はないだろう。
「・・可愛い後輩を困らせないように。君たちと違って、研究で忙しいんだからね?」
代わりの言葉を投げかけると、二人は互いの目を見てニヤニヤと笑う。どうせ、可愛いからこそ困らせたいだとかそんなことを考えているのだろう。
苦笑が浮かんだ頬を引き締め、扉を開く。
「いってらっしゃい、ショウちゃん」
追いかけてきた言葉に手を上げ、夕日で焦げた空気を吸い込む。
「さあ」
彼が次にここの空気を吸う時はもっと熱く湿った空気が彼の肺を満たすのだろう。その頃にはまた一つ生まれ変わったこの学園と出会えるのだと思うと、胸が高鳴って仕方がない。
「ゲームの始まりだ」
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